「ET」は本当にいる?

世界で60万人が“観測”中
米大学の研究チームが提唱

化石痕ある隕石、木星に“水の衛星”…期待高まる発見も

 「地球外知的生命体(ET)が存在するとの確証が得られたときは、これを国連事務総長に連絡する」(宇宙航行学国際アカデミー・SETI委員会『地球外知的生命体発見後の行動に関する原則についての宣言』第3条)
 広大な宇宙で、人類は唯一の知的生命体なのだろうか。科学者たちは発見後の対応策を既に準備しているが、それは「彼らからのメッセージが、あす届いたとしても驚かない」と考えているからだ。ETからの通信に耳をそばだて、キャッチしようという活動はきょうも続いている。(石黒 穣)

 米カリフヵルニア大バークリー校のチームが先月発足させた「SETl@home」は、世界中に広まった家庭用パソコンを動員してETからの信号を捕まえようという試みだ。
 解析するデータは、プエルトリコにある世界最大のアレシボ電波望遠鏡(直径305b)が97年から蓄積してきた膨大な電磁波の記録。同じパターンが繰り返されるなど、人工的と思われる波形が見つかれば、ETから発信された可能性が考えられる。自分が最初のET発見者になれるというロマンもあり、既に世界200以上の国、地域の約60万人が参加している。
 もし宇宙人がいて、ほかの文明と交信しようと考えたら、その“電文”はミリ波からマイクロ波にかけての1−100ギガヘルツで送信してくると考えられる。星間通信は雑音の少ない周波数を選ぶ必要があるが、1ギガヘルツ以下では銀河系を飛び回る電子が発する雑音が強く、逆に100ギガヘルツ以上では宇宙マイクロ波背景幅射などが邪魔になるからだ。
 中でも、1・42−1・64ギガヘルツ間の信号は重要。前者は「水素原子」の、後者は水素と酸素からなる「水酸基」の固有周波数だが、水は両者が結合してできる。水は生命誕生に不可欠と考えられるから、宇宙人も「電波天文台を持つほど発達した文明なら、この周波数帯の特異性に気付くはず」との願いを込めて送信してくる、と推測される。

 こうした地球人側のヨミが通用するかは、ETと身体の基本的な構成物質や、思考などにどれだけ共通性があるかによる。ETの思考法や感情などは想像しようもないが、構成物質はどうか。
 三菱化学生命科学研究所の河崎行繁主任研究員は「長い鎖を作れる元素としてはケイ素もあるが、炭素のような安定性はない。化学反応の場となる溶媒としてアンモニアもあるが、安定な温度領域が狭い。炭素と水を基本としない生命は考えにくい」と言う。
 ETも地球生物同様、炭素を基礎とし、その発生、進化、存続に水を必要とする、という点で研究者の見方はほぼ一致している。
 こうした条件が満たされる「生命の揺りかご」は、恒星から適度に離れた惑星だ。惑星は、ETの数を推定するドレイクの方程式でも重要な因子となっている。
 米サンフランシスコ州立大チームは4月、光のスペクトル解析から、44光年離れたアンドロメダ座ユプシロン星も、3つの惑星を持つことを突き止めた。宇宙には太陽系のような複数の惑星系がありふれている裏付けとなり、ET存在の期待が一段と高まった。

 身近な太陽系はどうか。第3惑星「地球」のほかに生命は存在しないのか。
  南極で採取された隕石に、火星期限のALH84001がある。1500万年前に火星から小惑星衝突などではじき飛ばされ、1万3000年前に南極に落下したとされる。NASAなどのチームは96年、「隕石の内部で36億年以上前の火星生命の痕跡を発見した」と発表した。バクテリアに似たチューブ状の微化石だ。
 痕跡は火星起源か、地球に落下してからの汚染か。論争は今も続く。もし火星起源なら、少なくとも過去には火星生命がいた証拠となる。
 木星の衛星エウロパの厚い氷の下で確認されている液体の水も、生命を宿している公算がある。地球外生命の存在を期待させる発見は尽きないのだ。
 平林久・文部省宇宙科学研究所教授もET探しにロマンを求める一人だ。
「今の地球の技術でも1000光年先の電波が捕らえられる。太陽系からこの距離内にある恒星は約1000万個。仮に電波が出せる文明を従えた恒星が1000万個に1個の割合で存在すれば、その通信はキャッチできる可能性があるのです」


©読売新聞 1999年6月21日