核爆発はその周辺にあるものすべてを放射性物質に変えてしまう。たとえば炭素(12C)のような普通の物質も、過剰なエネルギーを与えられることにより、高いエネルギーを持った放射性同位体≪ラジオアイソトープ≫(14C)に変化してしまう。するとこの原子は、余分なエネルギーを放射線の形で放出するのだ。
たとえばヨウ素などは、この過剰エネルギーの放出期間が比較的短く、2週間ほどで元に戻るが、14Cの場合は5730年も放射能が残る。しかし、ほとんどの物質は、ヨウ素のように素早く元に戻る。
ただし、中にはいつまでも長い期間、放射能をおびたままの物質があり、それがまた人体に対してきわめて危険なことがあるので注意が必要だ。大半の放射性物質は人体内に取り込まれても、数時間以内に排出されるので、2〜3週間もすれば体内には残らない。しかし、体は汚染された物質とそうでない物質の区別がつかないため、14Cなどいくつかの物質は排出されずに筋肉、骨、血液の中に組み込まれてしまう。これが放射線病を引き起こすのだ。ただし念のためにいっておくけど、14Cというのは自然界にはどこにでもある放射性同位体なので、この物質が危険だというわけではない。次にあげる物質が要注意である。
そのほか、放射能汚染された食料を食べなくても済むように、十分な備蓄食糧、ビタミン、ミネラル物質を用意しておくこと。特に、ビタミンKと鉄分は大切である。もちろん、安全な水も用意しておくこと。また、抵抗力が落ちたときに細菌に感染することが考えられるため、抗生物質も用意しておく(注意・抗生物質は使用期限があるため、常に見直すこと。テトラサイクリンは使用期限を過ぎると逆に毒性を持つ!)。
特に気をつけなければならないのは、細胞分裂が活発な部分ほど放射線の影響を受けやすいということだ。たとえば、造血組織(リンパ組織、骨髄、胸腺、脾臓)、生殖細胞、消化管上皮、皮膚細胞、目、肺など。甲状腺、副腎などの分泌器官も放射線に弱い。
被曝の程度 線量当量 | 病名 | 発症と死亡まで | ダメージを受ける部分 | 症状 |
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T 100Sv以上 | 中枢神経系症候群(CNS) | 3日以内 | 脳や脊椎の神経 | 感覚の喪失、筋肉の麻痺、頭痛、昏睡、てんかん性発作、けいれん |
U 10〜100Sv | 胃腸症候群(GIS) | 7〜10日以内 | 消化器系の上皮細胞 | 血便、嘔吐、下痢、虚脱状態、潰瘍、敗血症、感染症 |
V 3〜10Sv | 血液生成症候群(HS) | 20日以降 | 骨髄 | 疲労、再生不良性貧血、酸素欠乏、出血、感染症 |
通常、放射線粒子はわたしたち人体に影響を与えない。それは自然界においてはごくありふれた存在で、わたしたちは常日頃から放射線に身をさらしている。宇宙空間からも絶え間なく降り注ぐし、地中の岩石からも発生している(ラドン温泉などはこのいい例である)。ただし、この場合の放射線はきわめて微少なために、ほとんど体内を素通りしてしまうか、問題にならないレベルである。だが、非常にわずかな確率で、細胞内の大切な部分にぶつかった場合、たとえばそれが分裂中の染色体であったりした場合は、その細胞は死滅するか、悪ければガン細胞のようなものに変化するかもしれない。しかし、放射線を大量に浴びない限り、このようなケースはあまり恐れることはない。通常に暮らしているときに、放射線の心配をする必要はまったくない。
わたしたち人体の大部分を構成している水分に放射線粒子がぶつかった場合、正常な水分子H2Oは容易に過酸化水素H2O2に変化してしまう。これは細胞にとってきわめて有毒であり、細胞を殺し、またはDNAなどを破壊する。
このように、放射線を浴びた場合、素粒子による直接的なダメージと、過酸化水素による毒性という、2通りのダメージを受けてしまう。
質量の小さい順 | 構成 | 飛距離 | 透過力 | 遮蔽物 |
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γ(ガンマ)放射線 | 波長10億分の1センチほどの電磁波 | 長 | 強 | 厚い鉛板 |
X線 | 電磁波 | 長 | 強 | 厚い鉛板 |
β(ベータ)放射線 | 電子または陽電子 | 中 | 中 | 薄い金属板 |
中性子線 | 中性子 | 長 | 強 | 水(特に重水)、カドミウム |
α(アルファ)放射線 | 陽子2個と中性子2個からなるヘリウム原子核 | 短 | 弱 | 紙 |